中小企業はどう対応すべき?新リース会計基準の適用に向けた準備と3つのポイント

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新リース会計基準の導入に向けた議論が進み、「自社への影響は?」「いつから、何を準備すればいい?」と悩む中小企業の経理担当者の方も多いのではないでしょうか。結論から言うと、新基準ではこれまで費用処理できたオペレーティング・リースも含め、原則すべてのリース契約が資産と負債として貸借対照表に計上されることになります。この記事を読めば、新リース会計基準の基本から中小企業への具体的な財務的影響、適用時期、そして今すぐ取り組むべき3つの準備ポイントまで、網羅的に理解できます。実務で使える簡便的な取扱いもあわせて解説し、万全の体制で新基準を迎えるための具体的なステップを明らかにします。

目次

新リース会計基準とは 従来との違いをわかりやすく解説

2026年度から本格的に適用が開始される可能性がある「新リース会計基準」。これは、企業のリース取引に関する会計処理のルールを大きく変更するものです。特に中小企業においては、これまで費用として処理していた多くのリース契約が資産・負債として計上されることになり、財務諸表に大きな影響を与える可能性があります。

新リース会計基準の最も重要なポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上する「使用権モデル」が採用される点です。これにより、企業の財務状況の透明性が高まり、投資家などがより実態に即した判断を下せるようになります。

例えば、コピー機や社用車、パソコンといった身近なリース物件も、これまでは単なる経費(賃借料)として損益計算書(P/L)に計上するだけで済んでいたものが、新基準では「使用権資産」という資産と、「リース負債」という負債の両方を貸借対照表(B/S)に計上する必要が出てきます。

なぜリース会計基準が変更されるのか

今回のリース会計基準の変更は、主に国際的な会計基準との整合性を図るために行われます。これまで日本の会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類し、後者は資産計上されない「オフバランス取引」として扱われてきました。

しかし、国際財務報告基準(IFRS)では「IFRS第16号」、米国会計基準(US-GAAP)でも同様の基準がすでに導入されており、企業のリース債務の実態が財務諸表に反映されないという問題点が指摘されていました。つまり、多額のリース契約を抱えていても、それがオペレーティング・リースであれば貸借対照表には現れず、企業の実質的な負債が外部から見えにくい状態だったのです。

この状況を改善し、投資家への情報提供を充実させ、グローバルな視点での企業間の比較可能性を高めるため、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)も国際的な潮流に合わせて基準の改正を進めています。これにより、企業の財務の透明性を確保することが大きな目的です。

ファイナンスとオペレーティングの区別がなくなる

新リース会計基準における最大の変化は、従来の「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の会計処理上の区別が、原則としてなくなる点です。まずは、従来の会計処理を振り返ってみましょう。

分類判定基準の概要会計処理(借手側)
ファイナンス・リース解約不能で、リース料総額が物件価格の概ね90%以上であるなど、実質的に資産を購入したのと同様の取引。オンバランス処理
リース資産とリース債務を貸借対照表(B/S)に計上。減価償却費と支払利息を費用計上する。
オペレーティング・リースファイナンス・リース以外のリース取引。一般的なレンタルに近いイメージ。オフバランス処理
支払リース料を費用(賃借料など)として損益計算書(P/L)に計上するのみ。

このように、従来はオペレーティング・リースに分類されれば、貸借対照表に資産や負債を計上する必要はありませんでした。しかし、新リース会計基準では、この考え方が根本から変わります。

新基準では、短期リース(12か月以内)や少額リース(重要性が乏しいリース)などの一部の例外を除き、すべてのリース契約について借手は「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上しなければなりません。これを「使用権モデル」と呼びます。

新リース会計基準の原則的な処理
対象となるリース短期・少額などの例外を除く、すべてのリース契約。
会計処理(借手側)使用権モデル(オンバランス処理)
すべての対象リースについて、「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表(B/S)に計上する。
使用権資産の減価償却費と、リース負債に係る支払利息を費用計上する。

この変更により、これまで費用処理のみで済んでいた多くのオペレーティング・リースが資産と負債として計上されることになり、企業の財務諸表の見え方が大きく変わることになります。

新リース会計基準はいつから適用?中小企業の対象時期

新リース会計基準の適用時期と中小企業の対象 早期適用:2025年4月1日以後/原則適用:2026年4月1日以後(企業規模の区分なし) 上場・中小で適用時期の差なし 全企業が同一スケジュールで準備が必要 早期適用(任意) 2025/4/1〜2026/3/31の期首に選択可 原則適用(必須) 2026/4/1以後に開始する事業年度から 2025/4/1 早期適用開始 2026/4/1 原則適用開始 2027/1/1 12月決算の期首 2027/12/31 期間の目安 3月決算の企業: 2027年3月期(2026/4/1〜2027/3/31)が原則適用 12月決算の企業: 2027年12月期(2027/1/1〜12/31)が原則適用 早期適用(任意):2025/4/1以後に開始する事業年度の期首 原則適用(必須):2026/4/1以後に開始する事業年度の期首 全企業(上場・中小)に共通のスケジュール 準備は今すぐ開始を推奨 契約の洗い出し/会計方針決定/業務フロー見直しは時間を要します 特に中小企業は管理体制の整備に余裕を持った計画が必要 図:新リース会計基準の適用スケジュールと決算月別の具体例

新しいリース会計基準がいつから自社に関係するのか、特に中小企業の経営者や経理担当者の方々にとっては、最も気になる点の一つでしょう。結論から言うと、新リース会計基準の適用は、企業の規模に関わらず、特定の時期から一斉に開始される予定です。ここでは、具体的な適用スケジュールと、中小企業が押さえておくべきポイントを解説します。

まず、基本的な適用開始時期は以下の通りです。

適用区分適用開始時期
原則適用2026年4月1日以後に開始する事業年度の期首から
早期適用2025年4月1日以後に開始する事業年度の期首から

準備が整った企業は、2025年度から前倒しで新基準を適用することも可能です。

企業規模による適用時期の違いはある?

中小企業の皆様にとって重要なのは、「大企業と同じタイミングで対応が必要なのか」という点です。現時点で公表されている公開草案では、上場企業と中小企業とで適用時期に違いは設けられていません。つまり、会社の規模や上場の有無にかかわらず、原則としてすべて企業が上記のスケジュールに沿って準備を進める必要があります。

これまで中小企業には「中小企業の会計に関する指針」など、大企業とは異なる会計処理が認められるケースがありましたが、今回の新リース会計基準に関しては、現時点ではそのような特例は示されていません。そのため、すべての中小企業が当事者として、この会計基準の変更に備えなければなりません。

【決算月別】具体的な適用開始日の例

「2026年4月1日以後に開始する事業年度」と言われても、自社の決算月によって具体的なタイミングは異なります。ここでは、代表的な決算月の企業を例に、原則適用がいつからになるのかを見ていきましょう。

決算月原則適用の対象となる事業年度
3月決算の企業2027年3月期(2026年4月1日~2027年3月31日)
12月決算の企業2027年12月期(2027年1月1日~2027年12月31日)

このように、3月決算の企業であれば2026年4月1日から、12月決算の企業であれば2027年1月1日から新基準に沿った会計処理が求められます。自社の決算スケジュールを確認し、いつから対応が必要になるのかを正確に把握しておくことが第一歩です。

適用開始までまだ時間があるように感じられるかもしれませんが、後述するリース契約の網羅的な把握や会計方針の決定、業務フローの見直しには相当な時間と労力がかかります。特に、これまでリース契約の管理を厳密に行ってこなかった中小企業にとっては、準備期間がいくらあっても足りない可能性があります。影響を正確に把握し、円滑に移行するためにも、今すぐ準備を開始することが強く推奨されます。

中小企業の財務諸表に与える影響

新リース会計の影響(中小企業) オペレーティング・リースのオンバランス化と財務指標・費用構造の変化 旧基準(オフバランス) 貸借対照表(B/S) 資産 負債 オペレーティング・リースはB/Sに計上なし オンバランス化 新基準(オンバランス) 貸借対照表(B/S) 資産 負債 使用権資産 リース負債 資産と負債が両建てで計上 P/Lにおける費用構造の変化 旧基準(定額) 支払リース料(定額) 新基準(減価償却+利息) 減価償却費 支払利息(初期に大きい) 主な財務指標の変化 自己資本比率 ↓ 低下 総資産増で分母拡大 負債比率 ↑ 上昇 リース負債の計上 ROA ↓ 低下 分母の総資産が増加 EBITDA ↑ 増加 営業費用が減価償却へ 注:見た目の指標変化は会計処理の変更によるもの。影響額の事前シミュレーションと説明が重要。

新リース会計基準の適用は、特にこれまでオペレーティング・リースを多用してきた中小企業の財務諸表に大きな影響を与えます。最も重要な変更点は、これまで貸借対照表(B/S)に計上されていなかったリース契約が「オンバランス化」されることです。これにより、企業の財政状態や経営成績を示す見た目が大きく変わるため、事前にその影響を正確に理解しておくことが不可欠です。

資産と負債が両建てで計上される

新リース会計基準における最大の変更点は、これまで費用処理(オフバランス)していたオペレーティング・リースが、原則としてすべて貸借対照表(B/S)に計上されることです。

具体的には、借手企業はリース契約について、その資産を使用する権利を「使用権資産」として資産の部に、将来のリース料支払義務を「リース負債」として負債の部に、それぞれ計上しなければなりません。これを「両建て計上」と呼びます。

例えば、本社オフィスの賃貸借契約や、営業車両のカーリース、複合機のリース契約など、これまで単に「支払賃借料」や「支払リース料」として損益計算書(P/L)で費用計上していたものが、B/S上で資産と負債として表示されるようになります。これにより、B/Sの総資産と総負債がともに増加することになり、企業の財政状態の実態がより明確に開示されることになります。

財務指標はどのように変化するか

資産と負債が両建て計上される結果、これまで企業の健全性や収益性を測るために用いられてきた主要な財務指標が変動します。特に金融機関からの融資審査などで重視される指標に影響が及ぶ可能性があるため、注意が必要です。

主な財務指標の変化は以下の通りです。

財務指標変化の方向影響の理由
自己資本比率低下(悪化)総資産(分母)が増加するため、比率が低下します。企業の安全性が低くなったように見える可能性があります。
負債比率上昇(悪化)リース負債の計上により負債合計(分子)が増加するため、比率が上昇します。
ROA(総資産利益率)低下(悪化)総資産(分母)が増加するため、利益額が同じでも収益性が低下したように見えます。
EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)増加(改善)従来の支払リース料(営業費用)が、減価償却費と支払利息(営業外費用)に分かれるため、利息控除前の利益は増加します。

このように、自己資本比率や負債比率といった安全性の指標が悪化するように見える一方で、EBITDAのような収益性指標は改善する傾向にあります。重要なのは、これらの変化は会計処理の変更によるものであり、企業の経営実態そのものが悪化したわけではないという点です。しかし、何も説明しなければ、取引先や金融機関にネガティブな印象を与えかねません。そのため、事前に財務指標への影響額をシミュレーションし、ステークホルダーに対して丁寧に説明できる準備をしておくことが極めて重要になります。

また、損益計算書(P/L)上の費用構造も変化します。従来の支払リース料は契約期間中ほぼ定額でしたが、新基準では「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」が計上されます。支払利息は元本残高の多いリース期間の初期に大きく、徐々に減少していくため、費用がリース期間の前半に厚く計上される傾向があることも覚えておくべきポイントです。

新リース会計基準の適用に向けた準備 3つのポイント

新リース会計基準の適用に向けた準備 3つのポイント 図解 ポイント1 契約の網羅的な把握、ポイント2 会計方針の決定とシミュレーション、ポイント3 業務フロー見直しとシステム対応を、左から右に流れる3つのパネルで示した図。矢印で工程の流れを表現。 新リース会計基準の適用に向けた準備 3つのポイント 全社横断での契約把握 → 方針決定・試算 → 業務フロー/システム対応(早期着手がカギ) 1 契約を網羅的に把握 最重要 全社横断で契約を洗い出し 「リース」以外の類似契約も対象確認 主要項目を台帳に整理・一元管理 台帳の主な項目 期間/料/割引率/オプション/保管先 2 方針決定と試算 注意 短期・少額の簡便取扱いの適用可否 割引率(追加借入利子率等)の方針 B/S・P/L影響を試算し指標を確認 コベナンツ対応 自己資本比率/負債比率の悪化に注意 3 業務フローとシステム 効率化 情報収集〜仕訳までのフロー整備 再測定・注記の手順を明確化 システム改修/導入で自動化と統制強化 導入の第一歩 現行会計システムの対応状況を確認 ポイントは「早期着手」と「全社連携」。契約の洗い出し→方針決定→業務/システム整備を計画的に進める。

新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更に留まりません。関連部署を巻き込んだ全社的なプロジェクトとして、計画的に進める必要があります。ここでは、中小企業が新基準の適用に向けて具体的に取り組むべき準備を3つのポイントに絞って解説します。早期に着手することで、スムーズな移行を目指しましょう。

ポイント1 社内のリース契約を網羅的に把握する

新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約が資産・負債の計上対象となります。そのため、最初に行うべき最も重要なステップは、社内に存在するリース契約を一つ残らず洗い出し、その内容を正確に把握することです。

これまで費用処理していたオペレーティング・リースはもちろん、契約書に「リース」という文言がなくとも、実質的に資産を使用する権利を得て対価を支払う「賃貸借契約」や「サービス契約」なども対象となる可能性があります。経理部門だけでなく、各事業部門や管理部門にも協力を仰ぎ、全社横断で契約の洗い出しを行いましょう。

洗い出した契約については、以下の項目を中心に情報を整理し、リース管理台帳を作成します。Excelやスプレッドシートを活用して一元管理するのが効率的です。

管理番号契約部署リース資産の種類契約相手先契約締結日リース開始日リース期間リース料(月額/年額)支払条件延長・購入オプションの有無契約書保管場所
L-001営業部複合機〇〇リース株式会社2023/04/012023/04/105年30,000円/月毎月27日支払経理部キャビネットA
L-002情報システム部サーバー△△レンタル株式会社2024/01/152024/02/013年1,200,000円/年毎年1月末支払データセンター契約書ファイル

この台帳が、今後の会計処理やシミュレーションの基礎となる重要なデータベースとなります。

ポイント2 会計処理方針を決定しシミュレーションを行う

すべてのリース契約を把握したら、次に自社の会計処理方針を決定します。新リース会計基準では、実務上の負担を軽減するための「簡便的な取扱い」が認められています。自社の状況に合わせて、どの取扱いを適用するかを検討しましょう。

主に検討すべき会計方針は以下の通りです。

  • 短期リースの取扱い:リース期間が12ヶ月以内のリースについて、資産計上しない簡便的な処理を適用するか。
  • 少額リースの取扱い:リース資産の価値が低いリース(例えば、個々の資産の新品価額が5,000米ドル以下など)について、資産計上しない簡便的な処理を適用するか。
  • 割引率の算定方法:リース負債の現在価値計算に用いる割引率をどのように決定するか。貸手の計算利子率が不明な場合、企業の追加借入利子率を使用します。

会計方針を仮決定したら、その方針に基づいて財務諸表への影響額をシミュレーションします。リース管理台帳のデータを用いて、各契約の使用権資産とリース負債の金額を算出し、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)がどのように変動するかを試算します。

このシミュレーションにより、自己資本比率や負債比率、営業利益といった財務指標の変化を事前に把握できます。特に金融機関との融資契約において財務制限条項(コベナンツ)が付されている場合、指標の悪化によって契約に抵触するリスクがないかを確認することが極めて重要です。複数のパターンで試算し、経営への影響を分析した上で、最終的な会計方針を決定しましょう。

ポイント3 業務フローの見直しとシステム対応の検討

新リース会計基準の適用は、決算時だけでなく日常の経理業務にも大きな影響を与えます。これまでの費用計上だけの処理とは異なり、複雑な計算や管理が必要になるため、既存の業務フローの見直しが不可欠です。

具体的には、以下のような新たな業務が発生します。

  • リース契約締結時に、会計処理に必要な情報(リース期間、リース料、割引率など)を漏れなく収集するフローの確立。
  • 使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息の計算と仕訳計上。
  • リース条件の変更(期間延長など)が発生した場合の、使用権資産とリース負債の再測定処理。
  • 期末における注記事項の作成。

これらの業務を誰が、いつ、どのように行うのかを明確にし、社内規程やマニュアルに落とし込む必要があります。

また、業務フローの見直しと並行して、システム対応も検討しましょう。リース契約の件数が非常に少ない場合はExcelなどでの管理も可能ですが、管理の煩雑さや計算ミス、属人化のリスクを考慮すると、会計システムの改修や専門のリース管理システムの導入が有効な選択肢となります。

システムを導入することで、複雑な計算の自動化、仕訳の自動生成、契約情報の一元管理が可能となり、業務効率の大幅な向上と内部統制の強化が期待できます。まずは現在利用している会計システムのベンダーに新リース会計基準への対応状況を確認することから始めるとよいでしょう。

中小企業が活用できる簡便的な取扱い

新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を使用権資産とリース負債として資産・負債計上(オンバランス)する必要があります。しかし、すべてのリース契約に対して厳密な処理を行うことは、特に中小企業にとって大きな実務負担となりかねません。そこで、実務上の負担を軽減するため、特定の条件を満たすリース契約については、資産・負債を計上しない簡便的な会計処理が認められています。原則、すべてのリースがオンバランス化される中で、これらの簡便法は中小企業の実務負担を大幅に軽減する重要な選択肢となります。

ここでは、中小企業が活用できる代表的な3つの簡便的な取扱いについて詳しく解説します。

① 短期リースの特例

短期リースの特例とは、リース期間が短いリース契約について、使用権資産とリース負債を計上せず、従来通りの賃貸借処理を継続できる制度です。

対象となるリース

この特例の対象となるのは、リース期間が12ヶ月以内であるリース契約です。具体的には、契約開始時点において、リース期間が12ヶ月以内で終了することが明確なリースが該当します。例えば、イベント用に数日間だけ借りる機材や、繁忙期に1ヶ月だけレンタルする倉庫などが考えられます。

ただし、契約期間は12ヶ月以内であっても、借手がリース期間を延長する権利(延長オプション)を持っており、その権利を行使することが合理的に確実である場合や、安価で購入できる権利(購入オプション)の行使が見込まれる場合は、この特例の対象外となるため注意が必要です。

会計処理

短期リースの特例を適用する場合、新リース会計基準の原則的な処理は不要です。従来の賃貸借処理と同様に、リース料を支払時に費用として計上するだけで済みます。これにより、使用権資産やリース負債の計上、減価償却費や支払利息の計算といった複雑な会計処理を回避できます。

② 少額リースの特例

少額リースの特例は、リースする資産そのものの価値が低い場合に、短期リースと同様に簡便的な会計処理を認めるものです。

対象となるリース

この特例は、リース資産が少額であるリース契約に適用できます。対象となる資産は、新品であったとしても価値が低いものであり、個々の資産単位で少額かどうかを判断します。具体的には、PC、タブレット、プリンター、電話機、オフィス家具などが典型例です。

日本の会計基準案では具体的な金額基準は明示されていませんが、国際的な会計基準(IFRS第16号)では、新品時の価額が5,000米ドル以下が一つの目安として例示されています。企業は、自社の重要性の基準に照らして、少額リースに該当するかどうかを判断する方針を定める必要があります。

会計処理

少額リースの特例を適用した場合も、会計処理は短期リースと同様です。使用権資産とリース負債を計上せず、支払リース料を費用として処理します。多くの企業が多数保有しているであろうPCや複合機などのリース契約にこの特例を適用できれば、経理業務の負担を大幅に削減できる可能性があります。

項目短期リースの特例少額リースの特例
判断基準リース期間(12ヶ月以内)リース資産の価値(個々の資産が少額)
対象資産の例イベント用機材、短期レンタルオフィスなどPC、プリンター、オフィス家具など
会計処理使用権資産・リース負債を計上せず、支払リース料を費用処理(賃貸借処理)

③ 借手の割引率に関する簡便な取扱い

新リース会計基準では、将来支払うリース料総額を「現在価値」に割り引いてリース負債を計算する必要があります。その際に使用するのが「割引率」ですが、この算定は中小企業にとって煩雑な作業となり得ます。

原則的な割引率の算定

原則として、リース負債の計算には「リースに内在する利子率」を使用します。しかし、この利率を貸手(リース会社)が開示しないことが多く、借手が算定するのは困難です。そのため、通常は「借手の追加借入利子率」を使用します。これは、借手が同様の資産を同期間、同様の担保で購入するために資金を借り入れた場合に適用されるであろう利率を指し、個別の契約ごとに見積もる必要があります。

認められる簡便法

この割引率の算定負担を軽減するため、一定の要件を満たす場合には、簡便的な方法で割引率を決定することが認められる見込みです。例えば、リスクフリーレート(国債の利回りなど)に、企業の信用リスクに応じた一定のスプレッドを上乗せして算定する方法などが考えられます。

この簡便法を活用することで、個々のリース契約ごとに複雑な追加借入利子率を見積もる手間が省け、会計処理の効率化が期待できます。

まとめ

本記事では、中小企業が対応すべき新リース会計基準について、従来との違いや財務への影響、具体的な準備のポイントを解説しました。新基準の最大の変更点は、国際的な会計基準との整合性を図る目的から、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースも、原則として資産と負債に計上(オンバランス化)される点です。

この変更により、中小企業の貸借対照表は資産と負債が両建てで増加し、自己資本比率や負債比率といった財務指標が悪化する可能性があります。こうした影響に備えるため、ご紹介した「社内の全リース契約の把握」「会計処理方針の決定と影響額のシミュレーション」「業務フローとシステムの再検討」という3つのポイントに基づき、早期に準備を進めることが極めて重要です。

幸い、中小企業の実務負担を軽減するため、短期リースや少額リースに関する簡便的な取扱いも用意されています。自社がどのリース契約を保有し、新基準によってどのような影響を受けるのかを正確に把握することが、適切な対応への第一歩となります。適用開始時期を見据え、顧問税理士や公認会計士などの専門家にも相談しながら、計画的に準備を進めていきましょう。

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